2011年11月24日木曜日

原生林復活の皮肉

先週、お茶の時間に『チェルノブイリの森』を読んでいたら、その表紙を見て上司が「チェルノブイリの童話の本か?」と尋ねたのです。

表紙には森や動物が描かれていて、確かに一見可愛らしい印象を受けるので、「童話か」と思ってしまったのかもしれません。

実際には、ウクライナ系アメリカ人ジャーナリストで法学と生物学を専攻したというメアリー・マイシオが事故後約20年後のウクライナやベラルーシの立入制限区域で取材を重ねたルポルタージュ。

邦訳はNHK出版から2007年に出ていました。
それを今頃読んでいる。

かのスヴェトラーナ・アレクシェーヴィチの『チェルノブイリの祈り』が、非常にエモーショナルで強烈なルポルタージュであるのに比し、生物学を修めたこの著者は概ね冷静沈着でときにユーモラスにチェルノブイリ周辺の動植物の生態をレポートし、原発事故・放射線が周辺住民や自然に与えている影響についてはかなり抑制的な筆致であり、「いまだ検証されていない」「検証しようがない」と書かれている箇所が多い。
(そもそも著者は絶対的な原発反対論者ではない。)

何本かのドキュメンタリー映画で目にしたのだけれど、原発事故後、人が去った土地は素晴らしい原生林が復活していて、レッドデータブック記載の動物たちのサンクチュアリとなったかのような様相を示しているのだ…。
一見、野生の王国である。
しかし…。

一年前にはこういった本を読んでいたら、好奇の目で見られていただろうけれど、今では一種のトレンドになってしまっているのも、何だか皮肉であり、実はとても悲しい。

著者の法学士としての側面は、この本の中にはあまり反映していません。
ベラルーシ・ウクライナ両国(+ロシア)の事故後の施策については、“誰にでも平等に薄く交付”というものだった(それを“社会主義的”と断じている)ゆえに、“ほんとうに必要としている人に行き届いていない”という指摘をしているものの、具体的な論証をしているわけではなく、被災者たち実態を描くよりも、自然誌としての面が大きいです。

野鳥の楽園。
ある意味とっても“世界遺産”と呼ぶにふさわしいようなところ…。

『チェルノブイリの森 事故後20年の自然誌』

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