2012年4月7日土曜日

打ちのめされるようなすごい映画

イラン映画にやられた、と思わせられるのは、これが何度目になるのだろうか。
「別離」がアカデミー賞外国語映画賞を取ったと聞いても、このご時世ならではの配慮でしょうに、くらいにしか皆思わないだろう。
しかし、この映画はどんな映画祭でも最高賞を獲るだけの資質を備えている。

プログラムとチケットと初日プレゼントのドライいちじく

監督はイラン映画のニューウェイブ、アスガー・ファルハディ。
あの「彼女が消えた浜辺」の監督で、作風はあまり変わっていない。
テヘランの高学歴のホワイトカラーの中流家庭(私にとっては上流家庭にも見えるのだが、イランの上流というのは途方もなくリッチでハイソなのだそうで、このくらいの豊かさは中流そのものなんだそうだ)の視線で、イランの至宝である瞳うるうるの美少年は一切登場せず、という。

キャストも「彼女が消えた浜辺」とダブる人が多く、目鼻立ちのはっきりした濃いめの美男美女が、リアルな演技をして、淡々と展開していくが、嘘や隠し事がずるずるとこじれてしまっていく、という点でも前作と重なる。

これまでキアロスタミやジャリリやマフマルバフが描いてきた“名もなく清く美しく”ではないイラン、今のイランの一端をファルハディは描く。

男性の父親の介護ヘルパーは最初から男性を雇うべきだったのではないかという気もするが。
一瞬一瞬が緊迫の2時間、という傑作映画である。

この国の人々に平和と自由と誇りが今も後も限りなくありますように。

この作品に続けて観た「第九軍団のワシ」は、何のことはないただのアクション映画になっていて、原作が緻密で手に汗握るような素晴らしい物語であるだけに、登場人物のキャラクターもストーリーも別ものになっていて、大変残念だった。
今のところ、今年のワースト映画候補だ。
「別離」がよかっただけに、せめて別の日に観ればよかったと激しく後悔している。
何でこんなに気に障るのかというと、防護壁を超えて北に旅する際、あまりに何の考えもなしだからだ。
サトクリフの描くマーカスはもっとずっと周到に知恵を働かすのに。
映画のマーカスはそれじゃいつかは捕まるでしょ、という無策ぶりだ。
続編を作るとしたら絶対に別人が作って欲しい。

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