2016年7月31日日曜日

ソ連戦争映画を今観る価値

カナザワ映画祭2016で爆音戦争映画特集「戦争だ~い好き」というのを企画しているという。
プログラム自体は戦争映画の特集としてはオーソドックスな範囲ではないかと思うし、私なんぞ映画大国の東西の雄イランとポーランド(しかも両国とも深刻な戦争被害の経験を持つ)の作品がないのがかなり残念(そんなこと言ったらユーゴスラヴィア紛争どうよ?と話が広がってしまうけれど)、まずはこのカナザワ映画祭の主宰者の半公式ブログは一見して残念な気持ちになる。

最初この文章を知ったのはツイッター上であり、言葉は悪いけど所謂「ニワカ」に毛が生えたような映画マニアが個人的にこういう企画をして悦に入っているのかと、本気で思った。

だってね

各戦争から各陣営国の作品を万部なくチョイス
→それほどマニアックでもなく、全然まんべんなくではない

ドイツ側になって戦争映画を観てみれば他の国の兵隊とそんなに変わらない。
→いまさら何をおっしゃる。

ソ連製作の戦争映画は数あれど、そのほとんどが綺麗事のプロパガンダ映画で今見る価値といえば資料価値のみの作品が多い
→これは多くの人が違和感を持って反論されるだろう。が、「この程度の認識」の人はいらっしゃるんですよね、と最近も体感した。その方は映画マニアではあるようだった。しかし!この発言は映画祭主催者の半公式ブログ上でのことなのですよ。恥ずかしいわ。

ベトナム製のベトナム戦争映画って観たことないな。あるのか?
→あるよ。調べれば?これも映画関係者ならなお酷い。

私が一番「うわあ」と思ったのがこれ、ベトナム製戦争映画に関する件だった。
映画について、文化について、歴史について、教養とでもいうのだろうか、基礎的な知識が圧倒的に足りない(かつてノルシュテインさんが日本のアニメーター向けのワークショップで深い溜息とともに「そんなことだろうと思っていました!」「あなたたちにはテクニックはあっても教養がありません。何を描きたいのかという思想がありません」と(←記憶によれば。正確ではありません。)おっしゃっていたのが思い出される)。
さらに残念なのは向学心もなさそうなところ。知らなかったら調べましょうよ。
私としては、イランとポーランドの戦争に関する映画はどんどん観て欲しい。
一個人のレベルでさえ、ウェブ上でこんなことを書くのは憚れるだろうに、ましてや映画界の人なのですね。

京橋のフィルムセンターのキュレーターさんはどんな企画の時でもゲスト(当然その道のスペシャリスト)に対して適当な話題をふって的を射た質問をして、この人何でも知っている!と舌を巻く。
川崎市市民ミュージアムの昨年・今年の夏の戦争と平和の映画のプログラムも圧倒させられる。
そういった凄い、尊いお仕事をされている方たちがいらっしゃる一方で、なんともレベルが低くて残念なお話でした。

それで、例えば速水螺旋人さんがそうじゃないだろというのの論拠に挙げているのが
『誓いの休暇』『僕の村は戦場だった』『祖国のために』『道中の点検』『トルペド航空隊』『モスクワ大攻防戦』
あたりで、映画祭主催者さんはこのどれもご覧になったことがないのか、気になる。

何度も書いているけれど、「誓いの休暇」は生涯ベスト5のうちいの1本。
友人とは「あのアリョーシャの映画」で通じる。
モノクロ作品なのに脳内で”真っ青な空、黄金色の小麦畑”というウクライナ国旗みたいな配色のラストシーンを何度も再生している。

この他に思いつくまま、今観る価値のあるソ連の戦争映画
(「精神の声」「コーカサスの虜」などロシアになってからもいい映画はありますが、ここではソ連時代のものに絞ります。)
「鶴は翔んでゆく」
「鬼戦車T-34」
「海に出た夏の旅」
「戦火の大地」
「君たちのことは忘れない」
「翌日戦争が始まった」


昨日観に行った「さようなら、少年たち」も、素敵な青春もので、戦争のシーンはほぼ回想として挟み込まれるだけではあるけれど(なので戦争映画とは言えないかもしれないが)、全編くらくらするほどリリックでよかった。無論全然プロパガンダっぽくないです。むしろ反プロパガンダ。


追加
ラリーサ・シュピチコの「処刑の丘」



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